デザイン性の高いトロフィーとして評価された彼の作品

学生時代美大で過ごしていた私のまわりにはたくさんの変わり者がいました。私自身は油絵科にいたのですが、日本画科、彫刻科、染色科にも友人がおり、その科によって様々なタイプの人がいました。一番おもしろかったのは彫刻科にいた友人でした。彼は主に女性の像にこだわりを持って制作をしている人だったのですが、ある日を境に全く女性の像を作らなくなったのです。後になって知ったのですが、失恋でかなり傷ついた彼は女性がトラウマのようになってしまったようです。そしてその変わりに蛙をモチーフにした作品ばかりを制作するようになりました。その蛙も、何かおかしな感じでどこか人に見えるような、女性をモチーフにしていた頃を思わせる作品ばかりでした。楽しかった学生生活も4年生ともなれば就職活動で大変になってきます。将来のことを考えて皆それぞれ学んできたことを生かせる会社に就職したり、好きな芸術をあきらめて全く関係のない職種にしたり、現実を思い知らされることになりました。私もその一人で、なかなか絵では食べていけないので一般企業の事務員をすることになりました。


そして彫刻家の彼はといえば誰もが想像していた通り、そのまま彫刻家の道を選んでいました。卒業して3年くらいはなんとか活動していましたが、4年5年が経ってくるとさすがに収入が安定していない暮らしに彼も焦りがでてきたのだと思います。とうとう自ら営業活動をはじめました。あまり人と接するのを得意としていなかった人なだけに私たちは驚きました。でも、我々の希望の星としてどうにか頑張ってもらいたい気もちはありました。そんな彼にとうとう仕事が入ってきました。なんとトロフィー制作の仕事です。そしてそれは女性の像でした。彼が封印したトラウマの女性の作品を、本当にできるのか私たちは心配しましたが、初めての大きな仕事なので彼もやる気になっていました。そして出来上がった試作品をみた我々は思わず笑ってしまいました。あれ以来蛙の作品ばかり作ってきた彼の作った女性の像がどうしても蛙にしか見えないのです。顔は人間ですが、体のフォルムがどうも蛙っぽいのです。笑った私たちに彼はショックを受けたようでしたが、納得のいく作品だとそのまま依頼先へ提出したのです。そしてなんと、その作品は大変デザイン性の高いトロフィーとして採用されたのです。


そしてその後も彼には仕事が舞い込み、安定した収入を得られるまでになりました。今では完全に我々は逆転されてしまいました。